はじめに
近年、採用手法の多様化に伴い、企業が自ら求人原稿を作成するケースが増えています。しかし、求人広告には、法律や規定によって使用できないNGワードや不適切な表現が存在します。本稿では、求人原稿作成において留意すべき事項、NGワード、適切な表現について解説します。
- はじめに
- 求人原稿作成における課題
- 求人広告に関連する主な法律と規定
- 求人広告におけるNGワードと適切な表現
- 求人広告における虚偽の記載
- NGワードや虚偽の記載を行った場合のリスク
- 使用を避けた方が良い表現
- まとめ
求人原稿作成における課題
求人原稿の作成において、以下のような課題に直面するケースが見られます。
これらの課題を解決し、適切な求人広告を作成するためには、関連する法律や規定を正確に理解することが不可欠です。
求人広告に関連する主な法律と規定
求人広告の作成においては、以下の法律および規定を遵守する必要があります。
労働基準法
労働基準法は、労働条件の最低基準を定める法律です。求人広告においては、労働時間、休日、賃金などの労働条件を正確に明示することが求められます。
男女雇用機会均等法
男女雇用機会均等法は、性別による差別を禁止する法律です。求人広告においては、性別を理由とした募集や採用は認められません。
職業安定法
職業安定法は、職業紹介、労働者募集、労働者供給に関するルールを定める法律です。求人広告においては、労働条件の明示義務や虚偽広告の禁止などが規定されています。
雇用対策法
雇用対策法は、雇用の分野における機会均等と待遇の確保を目的とする法律です。求人広告においては、年齢制限の禁止が原則となっています。
最低賃金法
最低賃金法は、賃金の最低額を定める法律です。求人広告においては、最低賃金額以上の賃金を明示する必要があります。
著作権法
著作権法は、著作物の保護に関する法律です。求人広告においても、他社の著作物を無断で使用することは著作権侵害に該当します。
求人広告におけるNGワードと適切な表現
求人広告において、以下の表現は不適切または違法となる可能性があります。
性差別につながる表現
男女雇用機会均等法により、性別を理由とした差別的な表現は禁止されています。
- 不適切な例:
- 「男性限定」「女性歓迎」など、特定の性別を限定する表現
- 「主婦歓迎」「主夫歓迎」など、特定の性別を優遇する表現
- 「男性〇名、女性〇名募集」など、性別ごとの募集人数を記載する表現
- 「働くママ歓迎」など、特定の性別を対象とする表現
- 適切な例:
- 「男性活躍中」「女性活躍中」など、特定の性別の方が活躍している事実を記載する表現
- 「働くママ・パパ歓迎」「主夫&主婦歓迎」など、男女双方を対象とする表現
性別を指定する職種名
性別を指定する職種名は、適切な表現に言い換える必要があります。
- 不適切な例:
- ウエイター、ウエイトレス
- カメラマン
- 看護婦
- スチュワーデス
- 保母
- 営業マン
- 女性秘書
- 適切な例:
- ホールスタッフ
- フォトグラファー
- 看護師
- 客室乗務員
- 保育士
- 営業スタッフ
- 秘書
性別の指定が認められる例外
特定の職種においては、業務の性質上、性別の指定が認められる場合があります。
- 例:
年齢差別につながる表現
雇用対策法により、年齢制限を設けることは原則として禁止されています。
- 不適切な例:
- 「〇歳まで」「〇歳以上」など、年齢を限定する表現
- 「若手歓迎」「〇代歓迎」など、特定の年齢層を優遇する表現
- 適切な例:
- 「年齢不問」など、年齢に関係なく応募できることを示す表現
- 「〇代活躍中」など、特定の年齢層の方が活躍している事実を記載する表現
年齢制限が認められる例外
特定の条件下においては、年齢制限が認められる場合があります。
- 例:
- 定年年齢を上限とする場合
- 法令により特定の年齢層の就業が禁止されている業務の場合
- 長期勤続によるキャリア形成を図る観点から、若年者等を期間の定めのない労働契約の対象として募集・採用する場合
特定の人を優遇する表現
雇用対策法により、特定の人を優遇する表現は禁止されています。
性格に関する表現
特定の性格を求める表現は不適切となる場合があります。
- 不適切な例:
- 「明るい人」「元気な人」など、特定の性格を求める表現
- 適切な例:
- 「明るい対応ができる人」「コミュニケーション能力がある人」など、能力や行動を具体的に示す表現
地域に関する表現
特定の地域に居住する人を優遇する表現は不適切となります。
- 不適切な例:
- 「〇〇にお住まいの方歓迎」など、特定の地域に居住する人を優遇する表現
- 適切な例:
- 「〇〇にお住まいの方が活躍中」など、特定の地域に居住する方が活躍している事実を記載する表現
人権侵害や就職差別につながる表現
人種、民族、国籍、信条、社会的身分、門地、性別、性的指向、性自認、年齢、障がいなどを理由とした差別的な表現は、人権侵害や就職差別に該当する可能性があります。
- 不適切な例:
- 「外国人歓迎」「国籍不問」など、国籍に関する表現
- 「〇〇出身の方歓迎」など、出身地に関する表現
- 「〇〇な方歓迎」など、特定の属性を求める表現
あいまいな表現
労働条件や募集要項を具体的に示さないあいまいな表現は、求職者に誤解を与える可能性があります。
- 不適切な例:
- 「〇歳くらいまでの方」など、年齢制限をあいまいにする表現
- 「フォークリフト」など、必要な資格や経験を具体的に示さない表現
- 適切な例:
- 「〇歳以下の方」など、年齢制限を明確にする表現
- 「フォークリフト免許必須、実務未経験OK」など、必要な資格や経験を具体的に示す表現
優位性・比較・誇大表現
根拠のない優位性を示す表現や、他社と比較する表現、誇大な表現は、不適切となる可能性があります。
- 不適切な例:
- 「最大」「トップ」「ナンバーワン」「唯一」など、根拠のない優位性を示す表現
- 「業界No.1」「他社を圧倒」など、他社と比較する表現
- 「必ず成功できる」「簡単に稼げる」など、誇大な表現
- 適切な例:
- 「最大級」「トップクラス」「屈指」「他に類を見ない」など、客観的な表現
- 具体的な実績やデータを提示する表現
求人広告における虚偽の記載
求人広告に虚偽の内容を記載することは、職業安定法に違反する可能性があります。
給与に関する虚偽
給与に関する虚偽の記載は、求職者に誤解を与えるだけでなく、労働条件の不一致によるトラブルの原因となります。
- 不適切な例:
- 実際の給与よりも高い金額を記載する
- 手当が含まれていることを明示せずに給与を記載する
- 交通費の支給額に規定があることを明示しない
- 適切な例:
- 給与の最低金額と上限金額を明示する
- 手当が含まれている場合は、その内訳を明示する
- 交通費の支給に関する規定がある場合は、その内容を明示する
労働時間・勤務時間に関する虚偽
労働時間や勤務時間に関する虚偽の記載は、求職者に誤解を与えるだけでなく、労働条件の不一致によるトラブルの原因となります。
- 不適切な例:
- 実際の労働時間や勤務時間と異なる内容を記載する
- 適切な例:
- 実際の労働時間や勤務時間を正確に記載する
昇進に関する虚偽
実績のない昇進情報を記載することは、求職者に誤解を与えるだけでなく、入社後のキャリアプランに影響を与える可能性があります。
- 不適切な例:
- 実績のない昇進・昇格情報を記載する
- 適切な例:
- 実績に基づいた昇進・昇格情報を記載する
勤務地に関する虚偽
配属予定の勤務地と異なるエリアで募集することは、求職者に誤解を与えるだけでなく、入社後のミスマッチの原因となります。
- 不適切な例:
- 配属予定の勤務地と異なるエリアで募集する
- 適切な例:
- 配属予定の勤務地を正確に記載する
雇用形態に関する虚偽
正社員を見越した契約社員募集を「正社員」として募集することは、求職者に誤解を与えるだけでなく、入社後の雇用形態に関するトラブルの原因となります。
- 不適切な例:
- 正社員を見越した契約社員募集を「正社員」として募集する
- 適切な例:
- 雇用形態を正確に記載する
おとり広告
実際には募集していない求人情報を掲載し、応募者を別の求人情報に誘導する「おとり広告」は、職業安定法に違反する可能性があります。
- 不適切な例:
- 実際には募集していない求人情報を掲載する
- 適切な例:
- 実際に募集している求人情報のみを掲載する
NGワードや虚偽の記載を行った場合のリスク
求人広告にNGワードや虚偽の記載を行った場合、以下のようなリスクが発生する可能性があります。
- 応募者とのトラブル: 労働条件や募集要項に関する認識の相違から、応募者との間でトラブルが発生する可能性があります。
- 企業のイメージダウン: 虚偽の記載や不適切な表現は、企業の信頼性を損ない、イメージダウンにつながる可能性があります。
- 法的な罰則: 職業安定法などの法律に違反した場合、罰金や懲役などの罰則が科せられる可能性があります。
使用を避けた方が良い表現
法令違反には該当しないものの、求人広告において使用を避けた方が良い表現も存在します。
抽象的な表現
抽象的な表現は、求職者に具体的なイメージを伝えにくく、企業の魅力を十分にアピールできない可能性があります。
- 不適切な例:
- 「アットホームな雰囲気」「成長できる環境」「風通しが良い」「福利厚生充実」など、抽象的な表現
- 適切な例:
- 具体的なエピソードやデータを提示する表現
- 具体的な制度や取り組みを説明する表現
精神論的な表現
精神論的な表現は、論理的な根拠に欠けるため、求職者に共感を得にくい可能性があります。
- 不適切な例:
- 「やる気」「熱意」「夢」「根性」「気合い」「頑張り」「成長」「感謝」「ポジティブ」など、精神論的な表現
- 適切な例:
- 具体的な目標や成果を示す表現
- 具体的なスキルや能力を示す表現
まとめ
求人広告の作成においては、関連する法律や規定を遵守し、適切な表現を用いることが重要です。NGワードや虚偽の記載を避け、具体的な情報を提供することで、求職者に企業の魅力を効果的に伝え、適切な人材の採用につなげることができます。